”夫婦”のありかたが問われる『消滅世界』を読んで

家族とは、夫婦とは、自分の子どもを持つ意味とは。
村田沙耶香さんの小説『消滅世界』を読んで、答えのない問いが頭のなかでぐるぐると巡った。

▽『消滅世界』あらすじ
セックスではなく人工授精で、子どもを産むことが定着した世界。そこでは、夫婦間の性行為は「近親相姦」とタブー視され、「両親が愛し合った末」に生まれた雨音は、母親に嫌悪を抱いていた。
清潔な結婚生活を送り、夫以外のヒトやキャラクターと恋愛を重ねる雨音。だがその”正常”な日々は、夫と移住した実験都市で一変する。そこでは男性も人工子宮によって妊娠ができる、”家族”によらない新たな繁殖システムが試みられていた……。

最初は「おもしろい設定だな〜」と思っていたけれど、読み進めるにつれて「近い将来、世界はこうなるかも…」と不安になるほど、すごくリアルで、あれ?夫婦ってなんだっけ?結婚って何のため?と考えずにいられなくなった。

とくに”実験都市”では、男性も含めてすべての住人がすべての子どもの「おかあさん」となる。「自分の子ども」や「自分の両親」は存在しない。誰かに対する恋愛感情や性欲も存在しない。

「みんながみんなの家族」という平和な世界ではあるが、なんだか人間が人間ではなくなっているような気がする。実際に、実験都市で生まれた子どもたちはみんな外見も中身も同じように育てられ、まるでロボットのように描かれていた。

これは小説の話にすぎないが、現実でも恋愛しない人が増えているようだし、単なるフィクションとは思えずすこし怖くなった。たとえ、これからどんどん人工的で合理的な社会になったとしても、人が誰かを愛するという気持ちは残っていってほしいと願う。

最終更新日:2019年8月14日
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